オサムイズム

「オサムイズム」

久しぶりに自動車関連の本を。

(といってもこのブログははじめたばかりだから、最初の本になるのだが)

かつて自動車業界で働いていた私にとって、スズキというのはよくわからない会社だった。

 

トヨタのように、マスをターゲットに販売台数を稼ぐでもなく、マツダやスバルのように技術を持っていて、車好きに向けたとんがった商品を作るわけでもない。田舎に行くと農協でトラクターの横で車を売っているイメージしかなかったが、気がつくとインドでシェア40%を越える会社になっている。

 

ちなみ自動車販売台数(2014年度)でいうとざっくり以下のような感じ。

トヨタ:1000万台

日産:540万台

スズキ:300万台(うち、国内110万台、アジア120万台)

マツダ:100万台

スバル:90万台

 

ずいぶん前に400万台クラブ※という言葉が流行ったことがあったが、結果は全く違ったなぁとデータを見ながら思う。

 

※年間販売台数が400万台を越えないと今後の環境関連の開発費が回収できないということがまことしやかに話されていて、ダイムラー・クライスラーなど世界の自動車メーカーが合従連衡を行った。ただそれで成功した例はほとんどなく、400万台以下の自動車メーカーが今も生き残っているという事実。

 

話しをスズキに戻すと、タタがワンラックカーを発表した際にインドで成功している自動車としてはじめてベンチマークしたくらいで、印象の薄い会社だった。

 

VWとの提携解消について、そのときには既に自動車業界からエンターテイメント業界に移っていたので、その実情について詳しくなったために(著者が中西さんなのでそんなに外しはしないだろうとの読みもあり)、本書を購入。

 

読後の感想としては

・「small pond, big fish」

・「後継者問題」

の2点に集約されると思った。

「small pond, big fish」

これは私がMBAの際に、指導教官から教えていただいたことのひとつで、要はマスマーケットを相手にビジネスを行うと、大きな売上も見込めるが、競合が多く儲からないことが多い。

それであれば、自分が占有できる小さいマーケット(もしくはセグメント)を押さえてることで利益を独占し、そのsmall pondをたくさん押さえていけば、市場全体を抑えることができるというもの(クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」にも通じる考え方でもある)。

 

まさにスズキの戦略が、軽自動車というセグメントとインドという(当時は相当小さかった)市場を押さえ、その市場を独占することで利益を確保するという「samll pond ,big fish」そのものずばりであった。もちろんその過程は本書ではさらっと書いているが、相当に困難だったというのは容易に想像できる。その辺りは、やはり、現場を経験することがないアナリストとしての限界のような気がする。

「後継者問題」

スズキは後継者に恵まれないという印象だったが、本書でも多くのページを割いて、後継者について記述がある。ポイントは鈴木会長はやりたくてワンマン経営者になったのではなく、期待をかけた後継者が不幸にも他界するなどして、仕方なくというというものらしい。

 

後継者として目をかけた人物を外部からつれてきて、その人物は成果をだすのだが、みな最後の段階になって、体調を崩したり、他界している。

たんなんる不運と言えなくもないが、大企業とはいえ、地方の自動車産業、スズキ一族の会社となると一般の中小企業の文化を色濃く残していると思われ※、そのうえスズキを一代で大企業に育て上げた鈴木修氏の後継者ともなると、社内外からの重圧に耐え切れなくなってもしかたないと思った。

 

※実際に「俺は、中小企業のおやじ」という本も出している。

俺は、中小企業のおやじ

俺は、中小企業のおやじ

 

多くの場合、「新社長の邪魔をしたくない」という形をとるケースが見受けられるが、スズキの場合、もっと早い段階から鈴木修氏が目立つ形でサポートしないとだめではないか?と思っている。

 

ちなみに、購入動機であった「VWとの提携決裂の内側」については、期待ほどではなく、ふーん、という程度であったのが残念でした。 

オサムイズム ―

オサムイズム ―"小さな巨人"スズキの経営